【東京・白山】IL POSSO HORII(イル・ポッゾ・ホリイ)
先日、高校時代の友人と大学の共通の友人の3人で訪問したお店について紹介したいと思う。
このメンバーは、友人2人が同じ小・中学校出身だったということが判明して以来ここ1~2年は定期的に飲みに行く間柄である。普段はめったに会わないが、3人で話すと結構楽しくて、この近すぎず遠すぎない距離感が心地よい。こういう男女の友人関係は細く長く続いて欲しいと思っている。
さて、今回の店についてだが、そもそも知ったきっかけは、この店がまだ板橋に在った頃に遡り、大学の時のバイト先の方に連れて行っていただいたことにはじまる。まだ20歳になりたての自分は、食べたことのない料理に囲まれ、大人の世界にはこんなに美味しいものがあるのかと腹の底から衝撃を受けたのを覚えている。それ以来、社会人になってからも折に触れて訪れている。
店の雰囲気
一言でいうと、何よりイケてるオヤジに会える店である。店の雰囲気は、黒を基調とした内装に暗めの照明でまとめられており、極めてフォーマルな雰囲気を漂わせている。にもかかわらず、堅苦しい空気はまったく無い。それは一重に気さくなオーナーシェフとフロアを仕切るお茶目なギャルソン※、この2人のオヤジの明るく温かみのある応対によるところが大きい。
※要はホールスタッフのことを指す言葉だが、この道何十年のプロのオヤジをファミレスのアルバイトと同じ表現するには 気が引けたので分かりづらいがあえて使ってみた。
目の前のメニューに仕事、恋愛、人生のあらゆる些事に迷える20代半ばの私たちに対しても気さくに話しかけ、的確なアドバイスをもたらしてくれる(主に今日のメニューについて)。フォーマルな空間とカジュアルな接客のバランスが、このなんとも言えない心地の良い空間を作り出している。だから、一見して入りずらい店構えだが、いったん中に入ってしまえば、そんなことは気にならずにリラックスして食事や会話を楽しむことが出来る。
ただ、カジュアルといっても決して礼儀を欠いているというわけではない。サービスを提供する側とそれを受ける側客という立場をわきまえながら、マニュアル的な対応ではなくあくまでさりげなく客が肩肘を張らずに食事を楽しめるような配慮を感じる。こうしたバランス感覚が、なんとも洒落ているし、こういう大人ってカッコいいな、としみじみ思う。
この毛深い胸を張って言おう。仲の良い友人や恋人、家族、取引先の人との食事等、シーンを選ばずにお奨めできるお店だ。
ちなみに、店名の”IL POZZO”とはイタリア語で「井戸」の意。オーナーシェフの堀井さんの名に因んでつけられたとのこと。
料理
料理の味について。冒頭でオヤジが売りの店のように紹介してしまったが、ここはレストラン、料理の味が全てである。一言でいうと、何を食べてもうまい。初めて訪れてから一貫してその印象は変わらない。ここでもバランス感覚、炸裂である。イタリアンやフレンチと和食を組み合わせたような料理は、素材を生かした味付けで、見た目や食感、香りを楽しめる。
たとえば、今回の前菜で出てきたタコのマリネ。これもオリーブオイルベースのソースに、付け合わせで葱、大葉、茗荷がそえられており、そのアクセントが堪らない。そのあと出てきたあん肝のテリーヌも、見た目は洋なのだけど味はとっても和であった。
全体としては、フレンチ、イタリアンのメニューを主体とし、和の食材を織り混ぜアレンジされた創作料理であり、たくさん食べても、食べ疲れない西洋料理と言える。
簡単にメニューを紹介すると、
・タコのマリネ。このシャキシャキのミョウガがたまらない。オリーブオイルと塩、ミョウガの組合って、美味しいの確定した組合せだがありそうでなかなかない。そういうのをさらっとやるのがニクい。
・かに味噌のグラタン。一緒に出てくるバケットにつけて食べるのが至高、この店の定番メニュー。何度食べてもうまい!と思わず口に出していってしまう…新たに友人を連れてくると大抵こいつでこの店の虜となっていく。
・あん肝のテリーヌ。めちゃくちゃ和風の食材を使いながらも、洒落た洋食にアレンジするのがこの店の真骨頂。大葉、ミョウガ、ネギ、大根おろし、手前にあるのはポン酢ジュレ。ねっとりと濃厚なあん肝と種々の薬味のコンビネーションがたまらない。
・海老で出来た何か。フワッフワでなんかクリーミィなソースが優しくて濃厚でとても旨かったのだけれど、ここらへんから記憶が曖昧でこれ以上の表現が出来ない。
・魚介系のトマトソースのパスタ。これまたただのトマトソースでなくて、エビとかイカとかのダシがガツンと効いてすごく美味しかったのだが、もはや詳しく思い出せない…
※あと、今回は時期的に出なかったが、サンマのコンフィが絶品。箸を入れると身がホロホロと崩れて、それでいてしっとりとしており、秋刀魚の旨味をストレートに味わえる。コンフィだと頭まで柔らかく丸ごと食べることができる。これからは秋刀魚は塩焼ではなく、コンフィにすればいいじゃないと思わせる、思い出しただけでよだれが出てくる一品。
季節によっては鮎のコンフィもある。いずれにせよ、焼き魚の概念が変わる一皿、ぜひ食べてみていただきたい。
お会計
基本のプリフィックスのコースとワインボトル1本で、2人で一通り飲んで食べて5000~6000円で収まる。この値段設定にもオーナーさバランス感覚と気前の良さが現れている。
この大都会東京に於いて美味い店は数多とあるけれど、肩肘張らない雰囲気と値段の両立を実現しているお店は貴重ではなかろうか。
テーブルに着くとはじめに予算とオーダーを丁寧に説明、相談頂ける乗ってくれるので、どう注文したらいいか冷や汗をかく心配もない。
都営三田線の白山駅から歩いて5分。ぜひ一度訪問されてみてはいかがでしょうか。
一見敷居が高く見えてしまうからこそ、敢えて20代の方々のデートや記念日に行くのをおすすめしたい。ここまで読んで頂いてそこまで行きたいと思わないという方がいれば、それはこの店のせいではなく、私のボキャブラリー、そして表現力の至らないさの故だろう。
Tel: 03-3815-0036
https://tabelog.com/tokyo/A1323/A132301/13058187/
【東京・阿佐ヶ谷】水鳥屋 鶴に橘
~路地裏に佇む、看板の無い日本料理店~
先週末に杉並区に引越をしました。
越してきてはじめての金曜日、久しぶりに中央線沿いに住む友人と阿佐ヶ谷で飲むことになりました。今回はその夜に訪れたお店について書きます。
当日は特に事前の予約はせずに、友人との待ち合わせ時間前に駅前の商店街を廻って良さそうな店を探してみる。
一通り歩いてみてたどり着いた先は、スターロード商店街。JR阿佐ヶ谷駅の北口から荻窪方面に線路沿いに延びている。
奥のほうに進むと、ビストロ猫の髭、ワインバー木の蔵、鮨じゅうぞうといった名前の雰囲気の良さそうな店がいくつか見つかり、食べログで検索してもなかなかの好評価で期待が高まる。候補としてメモしておく。
ふとメインの通りから一本入った路地に目をやると、片隅にプレミアム・モルツの看板がポツンと置いてあるのに気づく。なんのお店だろうかと近づいてみるが、看板が見当たらない。
気になって中をのぞいてみると明かりはついており、どうやら営業はしているようだ。右手のカウンターにはスーツを着た中年の男性が1名、左手奥の座敷には20代後半と思われるカップル1組。カウンターの中には白い割烹着の男性が1人立っていた。
一見して入りづらい路地裏のこの店だが、店内は暖色系の灯りに包まれなんとも良い雰囲気が漂っているではないか。これはさっそく食べログで調べねばと思ったのが、店名が分からないのでは調べられないことに気づく。
そうこうしていると友人と改札で待ち合わせの時間となり、結局店の名前は分からずじまいで一旦駅へと向かう。お店はどうしたものか。やはり、最後に通ったあの店が気にかかる。店名も分からず事前情報がまったく無い店に飛び込むのはリスキーだなと思いながら、ここは直感に任せて店の戸に手をかける。
結論としては、大当たりだった。
- 店の雰囲気
店主は以前は客単価数万円の高級料亭で働いていたが7年前に縁あって阿佐ヶ谷のこの地に店を開いたとのこと。まだ30代前半~中頃かと思われお若い。おかげで敷居が高そうな雰囲気の店だったが、まだ二十代の我々が居ても場違いには感じれない。
店内はカウンターが6席、テーブル(掘りごたつ)2卓で10~14名程でいっぱいになるくらいのこじんまりとした造り。店主がお一人で切り盛りされているため、料理もお酒も出るペースも比較的ゆっくりである。ただ、不思議と待たされた感覚を覚えることは無く、むしろゆったりと流れる時間を含め、このお店の魅力なのだと感じた。
常連のお客さんはきっとここのペースを知っているのだろう。店の混み具合や店主が料理している様子なんかも目の端で捉えながらも、ゆっくりと料理や酒、連れ合いとの会話を自然に楽しんでいるように見えた。
おいしい酒と料理で程よく心もほぐれてくると、自ずと店主や隣の人とも会話が交わる。常連の人だけでなく新参ものの我々も気にせず会話に加わる。そして、話題に一区切りが着くとまた自分たちの会話に戻っていく。この会話の移り変わりが特に無理を感じることなく自然と行われる。こういう距離感って、なんだかいいなぁと思う。
- 料理
原則事前予約が必要ということで、今回飛び込みで入った私たちは2400円ほどのコースをお願いした。
前菜盛り合わせ(自家製のからすみ他)
平目の刺身
マグロの酒盗
焼き鮭(名前を失念)
そば(カボスが効いてうまかった)
これに日本酒3合ほどをちびちびといただいた。
写真は富山の清都酒造場が作るかちこま。
漢字では勝駒。元々は日露戦争の勝利を記念して命名されたという。名前は猛々しいのだが、飲み口はとてもまろやかで日本酒初心者の私たちでも楽しめた。最近入手困難らしいのだが、店主が元々、富山に住んでいたことがあり地元の知り合いの酒屋さんから直接的買い付けているそうだ。
食器・酒器
店に入って気づくのが器の数。店のサイズにしては棚に並ぶ皿がやたらと多い。聞くと、店主の趣味がこうじて古物商の資格まで有しているとのことで、業者向けに開かれる市場等まで出向いて定期的に仕入れをしているそう。
「これは大正、明治、江戸」と年代別に次々とお皿が出てくるは、出てくる。これは、お皿好きにはたまらないのではないだろうか。料理ごと、お客ごとに、食器も酒器もさまざまで、見ても食べても美味しい。
- お会計
会計は3時間以上、ゆっくり食べて飲んでしめて1人あたり5000円弱、これには二人で驚き。料理に酒に人、どれをとってもなんともふくよかな時間を味わえる店だった。
ああ美味しいと、すっと腑に落ちる店との出会い。
こういうお店との出会いというのも、これからの人生の楽しみのひとつだなと思う。
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水鳥屋 鶴に橘
〒166-0001
杉並区阿佐谷北2-4-7
TEL : 03-3330-7705
OPEN : 18:30~ 食材が無くなり次第終了 CLOSED : 日曜日
カウンター7席、小上がり8席 御予算 : 3000円~
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お店のウェブページより抜粋
http://falco.sakura.ne.jp/tsuru/access/
今回は飛び込みで幸運にも2席空いていましたが、原則事前予約をお奨めします。
ネパールで食べたうまいもの・うまい店
今回の旅行中に食べたカトマンズで食べた旨いものについてです。なお、今はインドのハイデラバードに住んでおり普段は日本食をほとんど食べていないため、極端に日本食に偏ったレパートリーとなっておりますのでご注意ください。
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1.「絆」のスタドン
カトマンズに到着してまず最初にKさんが連れて行ってくれたお店。Thamel地区にある。
日夜、チキン→豆→野菜カレーのヘビーローテーションを繰り返している私にとって、たっぷりとニンニクが効いた豚肉の旨さと言ったらもう言葉にならない。空腹は最高のスパイスというが、約4か月ぶりに口にする豚肉、今なら脂身が持つうまみを全身全霊で感じることができる。一度食べ始めたら、もう止まらない。ただひたすら日本食との絆を確かめ合う。
この店のオーナーは日本でコックとして働いていた経験もあり、よくある「なんちゃって」日本料理屋とは一線を画すクオリティーを提供している。カツ丼に関しても、衣が適度に薄く、肉厚なポークをしっかりと楽める。最後には、奥さんからほうじ茶まで出していただく。これに味噌汁もついて1杯380ルピー(約380円)。日本食砂漠から来たやってきた私にとってはまさにオアシス。カトマンズ到着早々、もう思い残すことは何もない、、、ほどに大満足。
定休日は土曜日。
薄暗い通路を抜けるとそこには楽園が。
2.ファーマーズマーケットで食べたフォー
次は、毎週土曜日に開かれるファーマーズマーケットにて。メインの来ている人は欧米人ばかりで出店している店もオーガニック野菜にベーグルやチーズ、ハムやベーコンなど、ここだけ切り取ってみるとまるでヨーロッパにいるかのようだ。下記の記事にもあるとおり「駐在員の動物園」といえるくらい欧米人ばかりで驚いた。ビジネス目的というよりは、NGO/NPOや各国政府関係者が多いようだ。
欧米人をターゲットにしているだけあって、価格設定もローカルと比べれば少々高めだが、その分どれもよく手が込んでいている。
そんな中でも、印象に残っているのはこのフォー。この透き通ったスープがたまらない。エビ、チキン、ベジの三種類。その場で、ポットからスープを注いでくれるので、屋台だがアツアツでいただける。まさかネパールでこんなにおいしいフォーに出会えるとは思ってもみなかった。
3.「だんらん」のとんこつ醤油チャーシューメン
これまた麺類だが、次はだんらんという日本料理屋で食べたラーメン。経営者の方は日本人。面からスープまですべて自家製だという。この魚介系と動物系スープのうまみに醤油ベースのたれが織りなすハーモニー。インドに来て以来、定期的な発作のように無性にラーメンが食べたなる病に苦しんでいた私にとってこれほどの特効薬はほかにない。一度箸をつけたら最後、そのままスープまで飲み干した。チャーシューのボリュームはもちろんのこと、このほうれん草がまたいい仕事をしている。これでノリをトッピングできたら、などというのはそれはもはや贅沢のし過ぎ。罰当たる。唯一、惜しむらくは麺がちょっと柔らか過
4.チベットの鍋料理 ギャコック
ギャコックというチベットの鍋料理。今回はThamel地区にあるUtse(ウッツェ)というゲストハウス内にあるレストランでいただいた。色々な種類の肉と野
値段もお手頃で、コースで鍋のほかに野菜炒めやモモ、焼きそばがついて、ビール2~3本飲んでも一人1000円ほどと素晴らしい。この冬
5.バクタプールで食べたヨーグルト
ネワール族の古都バクタプールにて。カトマンズ市内からはバス/タクシーで1時間弱。町全体が世界遺産だということでレンガ造りの家々が連なる街路は古代の雰囲気をそのままに残している。ただ、先の地震の影響で崩れたり大きくひびの入った家も目についた。このヨーグルトだが、現地では「王様のヨーグルト」という。昔はくらいの高い人しか食べれなかったのかもしれないが、今はこの町の名物として各所で売っている。だが、どの店もそんなに営業努力をしていないのか、店先に人がいないことも多くて言われないと店だと気付かないところもあった。冷蔵庫でしっかりと冷やしてあり、一口食べるとレアチーズケーキのよ
バクタプールの五重の塔。
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最後に、カトマンズには海外から多くの観光客も集まるためかリーズナブルかつ旨い店が数多くあるようです。また、カトマンズから西に約200kmの位置にネパール第2の都市ポカラにもよいレストランがたくさんあるとのこと。ネパールはインドと中国の両大国に挟まれているためか、インドだけでなく東アジアの影響もみられました。その分、インドと比較して食事に関しても日本人の口に合うものが多いように思います。ですので、日本からの旅行だけでなく、インド在住の方やバックパッカーの方で日本食に飢えている人には絶好の旅行先ではないでしょうか。
今回は残念ながら時間と胃袋が足りず諦めた店も多くあり、空港でデリー行きの飛行機を待ちながら、またカトマンズに来ようと一人そっと胃袋と誓い合ったのでした。
Thamelの通りにて。
ネパールの村で食べたカレー
8月11日から5日間ほどネパールに旅行へ行きました。いま私が住んでいるハイデラバードからはデリー経由でカトマンズまで約6時間。今回は学生時代の友人で今はJICA青年海外協力隊員としてカトマンズを中心に活動するKさんとMちゃんを訪ねに行くのが主な目的です。ここでは旅の中で特に印象的だった「村で食べたカレー」について書きたいと思います。
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ネパールに来て3日目の夜は、JICA青年海外協力隊のKさんが活動する村に泊めさせてもらうことに。カトマンズ中心部からバスで1時間ほど揺られ、降りてからさらに田舎道を30分ほど歩いたところにその農村はある。8月中旬というとネパールでは雨季に当たるが、幸いにも当日は快晴。日差しが強く山道を少し歩くと汗がにじんだが、日陰にはいるとひんやりとして気持ちよい。目の前に広がる水田の若緑と青空と白い入道雲の組み合わせがとてもきれいだった。
村に着いてさっそく今夜泊めていただくKarki家にお邪魔する。よく日に焼けたおとうさんとおかあさんが笑顔で出迎えてくれた。当日は土曜日だったこともあり、大学生の娘さんも家に居た(ネパールでは土曜日が休日)。三人とも小柄ながらガッチリとした体型で、顔や雰囲気がよく似ている。今回、村を案内してくれるはずだった息子はどうやら外出中のよう。玄関の前で少し世間話していると、隣の家の人がやってきてトウモロコシを置いて行ってくれた。この間の会話はもちろんネパール語。私は横でネパール語を自在に操るKさんたちに感心しながら話を聞いていた。
村に着いたのが12時過ぎだったので挨拶もほどほどに居間に案内され、畑で取れたトウモロコシを昼食にいただく。茹で上がったトウモロコシに塩をまぶして食べる。食べ方は日本と同じ。ただ、トウモロコシの身は日本で食べるものと比べて何となく粉っぽく、甘みも薄い。ここの家のおとうさんは10年以上もドバイに出稼ぎに行っていて、ちょうど2か月前に帰ってきたばかりだという。そのためか部屋にはSony製の薄型テレビやかなり旧式だがデスクトップPCもあり、家にはWi-fiが通っていたりと、村の中では比較的裕福な部類に入るのかもしれない。
その後で村の近くの山に散歩に出かけた。家を通り過ぎるたびに村の人たちは明るく声をかけてくれた。村全体が見渡せる高台に上ると、田んぼが青々と広がっており、遠くに目をやるとカトマンズが山々に囲まれた盆地だということがよくわかる。天気が良い日はヒマラヤまで見通せるそうだ。ただ、標高が1300メートルほどあるので、日本の盆地のような蒸し暑さはない。
夕方になりKさんたちは町へ帰り、私だけがその家に残る。途端にネパール語が話せない私は不安になる。おかあさんに言われ、夕食を待つまでの間に村の入り口にある共用の水場へ体を洗いに行った。昼間は女性たちが洗濯をしていたが、夕方になるとこうして村の人たちが体を洗いに来る。一日歩いて疲れた体に冷たい水が気持ちいい。各家にはシャワーがないのでこうしてここにきて体を洗いに来るようだが、冬場や女性の場合はどうしているのだろう。聞いておけばよかった。髪を洗っていたら、ちょうどKarki家の息子が友達後ろに乗せてバイクに乗って帰ってきた。そこで、体を洗ったばかりの私も載せて三人でバイクに乗って一緒に帰る。
息子は英語が不自由なく話せるので、夕食を待つ間、彼の部屋でいろいろと話をした。彼もこの2年間は父親のいるドバイに行って、オフィスでメッセンジャー(オフィス内で書類を届ける仕事)として働いていたという。彼が英語を使えるのもその経験からだ。彼の携帯はiphone5Sだが、これもドバイでの仕事で得た給料で買ったものだ。SIMはプリペイド式で、ネットも電話も使っても月に500ルピー(500円)くらいそうだ。村はよく停電するので、携帯用のバッテリーは欠かせない。もともとは絵をかくのが好きで、インテリアデザインの専門学校に通っていたがドバイで働く父親に呼ばれてその学校は途中でやめたという。彼が昔描いたというガネーシャの絵を見せてもらったが確かに上手だった。これからは父親とバイク整備会社を新しく立ち上げるらしく、今はその手伝いで忙しいという。
そして夕食。ネパールでは夕食が遅くて大体8時~9時くらいに食べる。その夜はネパールでは定番のダルカリー(豆のカレー)とライス、そして付け合せの野菜というシンプルなメニュー。ここはせっかくなのでスプーンは使わずに、手で食べる。ご飯をカレーに浸して一口すくって口に入れるとこれがまた感動するほどおいしい。カトマンズ市内でもインド(ハイデラバード)では食べられないうまいもの(主に日本食)をたくさん味わうことができたが、振り返ってみると結果的にはこのカレーが一番印象深い。写真の通り、いつもインドで食べているものとさして変わらないただのカレーなのだけど、なんというか深みのある味わいがある。家の前の畑で採れたばかりの新鮮な素材を使っているからなのか、野菜にもカレーにもしっかりとした「うまみ」を感じることができる。インドに来てから、辛みと油ばかりのカレーはたくさん食べてきたが、うまみを感じるものはほとんどなかった。でも、これはついついおかわりをしてしまう。すると、おかあさんがうれしそうにカレーをよそってくれる。そして、すぐにご飯のおかわりはどうか、野菜もどうかと聞いてくる。するとまたカレーが足りなくなりお代わりをお願いする。もはや、わんこそば状態である。こちらの人はお客がたくさん食べると大変うれしい気持ちになるというので、遠慮なくおなか一杯いただきました。その夜、寝苦しくなるくらいに。
畑で採れたトウガラシ
次の日の朝ごはんもほぼ同じメニュー(付け合せの野菜だけが違う)だったが、食べてみるとやはりうまい。昨日食べたカレーは夢ではなかった。息子もドバイで働く2年間でもっとも恋しかったのは、母が作るこのカレーだったという。どこの世界でも、おふくろの味というのは得難いものだなと思った。
それにしても、本当に旨いカレーだった。
きっとこの先もネパールといえばきっとこのカレーとあの家族を思い出すであろう、忘れられない味。
カトマンズ市内にて。「おふくろの味」が大変気になったが、残念ながらすでに閉店してしまっている。